「ベートーヴェン・フリーズ」
(1)「ベートーヴェン・フリーズ」(1901~2) グスタフ・クリムト:クリムト展図録
東京都美術館で「クリムト展」が開かれています。クリムト」はじめとして「ウィーン分離派」に見られる表象は、まぎれもなく「形而下の文化史」で現在書いている「古代表象」です。(参照から始まり現在の記事までに、基本的なすべての「ウィーン分離派」に見られる表象は出てきています。)
クリムト自身は作品について何も語っていません。彼は作品とただ向き合うことを望んだそうです。私は「ベートーヴェン・フリーズ」に向き合ったとき、作品の完成度とテーマに圧倒されました。
まだ行かれていない方は、ぜひ足をお運びください。私はこの絵に出合い、何日も幸せに浸っています。
この絵のテーマは非常に解りやすく、強くてシンプルです。長くなりそうなので、「ベートーヴェン・フリーズ」についての私見は「形而下の文化史」・トピックスに書くことにします。ただ、その前に足を運んでいただきたいので、大切なポイントだけは、少し押さえておきたいと思います。
(2)「ベートーヴェン・フリーズ」(1901~2) グスタフ・クリムト:クリムト展図録
写真 (2)は「敵対する力」と題されています。比較的解釈が難しい場面です。ただ写真 (1)~(5)の展開の中で、さらに、あふれる表象を読み解けば、考えられる解釈は限定されます。頭に「生命の表象・渦巻(参照)」を持つ女神たちが苦しんでいます。原因は背後の禍々しい生き物たちですが、どうやら、それを生み出しているのは、全面右の妊婦のごとき女神のようです。なぜ女神だと分かるのか?それは彼女の腰布の表象はいずれも「平衡」を表しているからです。(参照) 目玉に見えるのは、絡んだ「二匹の蛇」に「雨」が入る表象で、コーカサス地方、北西イラン、アナトリア、シリアでよく現れています。「円筒印章」のところで詳しく説明する予定でしたが、コーカサス地方でギザギザ線の「sheveron(平衡)」を「蛇」とみなすようになった、メソポタミア文明以前からの表象です。どうやら「平衡の女神」はもはや「平衡(人間を含む自然界のバランス)」を保っていないようです。女神の背景に描かれた「輝く雨の表象」は歪み、崩れています。
なぜ「平衡」が崩れているのか?それは「フリードリッヒ・フォン・シラー」の「歓喜に寄す」の一文に語られています。「時流が強く切り離したもの」つまり、シラーはユダヤ教成立時の理想から、それを受けたクリムトはさらに遡り、「雨による平衡の女神」を誰もが崇めた時代から、宗教、神学、権力体制、イデオロギーが次々と生まれ、人々は分断され続けたこと。分断された世界。(分断された時代、EUやどこかの大統領。そして権力と人々、悲しい現状です。)
それと、クリムトを突き動かしていた概念を知りたい方は、もう一つの素晴らしい展示会も見るべきです。
(3)雨の女神
(3)「shuveron(平衡)の騎士」 エディタ・モーザー 1910年度カレンダー;世紀末 ウィーンのグラフィック図録
「目黒区美術館」で開催中の「Graphics in Vienna around 1900(世紀末ウィーンのグラフィック)」展です。クリムト「ベートーヴェン・フリーズ」を解釈するうえで重要な資料が、数多く展示されています。そして意外な「ウィーン分離派のグラフィック・デザイン」の始まりを知ることができます。
それと、「目黒区美術館」に行かれた方は、二階正面に置かれた二体の女神・頭部に表された「青色の雨の表象」を見落とさないでください。
又、東京都美術館に行かれた方は「ベートーヴェン・フリーズ」で一番重要な部分・ 写真(4)を、決して見流さないでよく見てください。
(4)「ベートーヴェン・フリーズ」(1901~2) グスタフ・クリムト:クリムト展図録
「輝く雨の表象」をもつ本からは、「手(雨の表象)」と「渦巻(生命の表象)」が現れている。(参照1)
クリムトは「雨による平衡の女神(ここでは雨・女神と平衡・黄金の騎士は別々に描かれています。)」に助けを求める女性に(写真・1)、自由になるためには盲目的な信仰でなく、人間を含めた自然界を理性的に理解することを求めています(啓蒙主義)。写真(4)
ベートーヴェンが読み、「第九」を書くことを願った「フリードリッヒ・フォン・シラー」の「歓喜に寄す」の真の意味を理解することを、ここでは描いていると考えられます。それが「手(雨の表象)」と「渦巻(生命の表象)」に現れていると思います。ただ、クリムトの絵は、「歓喜に寄す」の概念が生まれる以前の、「雨による平衡の女神」を描いていることが、「ウィーン分離派」の本質を見抜くことにつながると思います。( 「フリードリッヒ・フォン・シラー」の「歓喜に寄す」に出てくる「智天使」も、ユダヤ教に取り入れられた「イシュタル」であることは、「天空神」と「翼をもつ女神」の関係から、理解できます。参照)
人間を含む自然界は平衡(バランス・調和・豊穣)を取り戻し(きれいに整列した雨の女神達で表現しています)、女神の表象は「雲」と「雨」。
生命は発展する。
そして「歓喜」
(5)「ベートーヴェン・フリーズ」(1901~2) グスタフ・クリムト:クリムト展図録
「輝く雨の表象」をまとう「黄金の騎士」;クリムト展図録
こちらの絵では、「黄金の騎士」はヘルメット、やり、馬具、全て「輝く雨」(参照)表象を持ち、「黄金の騎士」が「雨による平衡の女神」であることが分かります。
「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展
国立新美術館
ヨーゼフ2世のモヌメント(ヨーゼフ2世の死後、彼の啓蒙主義などの功績を称えてフリーメイスンが出版した銅版画、ヨーゼフ2世とフリーメイスンの繋がりを示す。
「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展図録
図録では、フリーメイスンと古代エジプトに関係づけていますが、私はフリーメイスンとコーカサス地方だと考えています。コーカサス地方の山中に残されたピラミッドは、巨石文化へと繋がっていきます。フリーメイスンの初期の顔は「石工組合」ですね。「石を切り、石を曳き、石を積む」部族です。「フリーメイスン」や「Bertha Zuckerkandl(ベルタツッカーカンドル)」女史など「ユダヤ人(ウィーンの)」なくして古代表象をグラフィックデザインとして使った「ウィーン分離派」は存在しません。そしてユダヤ人もコーカサス地方の一部族です。
ちなみに、2万6千年頃レバント地方からイランの方に、出アフリカをした部族のY染色体ハプログループは「G1」で、そのうちコーカサス地方で定住し、分岐したハプログループは「G2」です。ユダヤ人は「G2b」で、「G2a」が主に北ヨーロッパや西ヨーロッパに広がったのに対し、「G2b」はそれ以外にパキスタン、インド、東南アジア方面にもひろがっています。インダス文明の主な担い手だと考えています。このハプログループは「G2」の広がりを見れば、コーカサス地方の部族が、「黒海大洪水」や「プロト・インドヨーロッパ語族の到来」から逃れ、世界に広がったことが見えてきます。