WAKU JEWELRY Blog

和久譲治のジュエリーブログ

 

SILVERSMITHING・銀食器作りのテクニックとジュエリーメイキング

 

 

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(1)チューリップ・ブローチ silver92 5;Petit Fiori 和久譲治

 

これからしばらく、私がロンドンで学び、ジュエリー&アクセサリーの金属成形に役立てている「silversmithing(銀食器作りの技法)」、「Forging(鍛金)」について、工具、テクニックの両面から書いていくことにします。

 

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(2)Forging(鍛金)用 オリジナルStake & anvil(金床・烏口)和久譲治

 

 

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(3)「Forging(鍛金)」用Hammers;小型のボールはないので作りました。 

 

「silversmithing(銀食器作りの技法)」の中心的な技法は、金属の一枚板から皿やボール、ポットを成形していく「Raising(絞り)」になります。板の厚さを変えずに、深い立体を作れる技法ですが、ジュエリー&アクセサリーの制作で用いることは少ないので説明は後にします。(写真(1)・(3)・バラやチューリップの膨らみの大きいところはRaising(絞り)しています)

まずは「Raising(絞り)」ほどの立体を伴はない「Forging(鍛金)」について、私の経験から大切なポイントに絞って説明していきます。

 

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(4)バラとチューリップ・ブローチsilver92 5;Petit Fiori設立以前、銀座専門店用として  和久譲治 

 

1995年頃、バラ好きの私は、毎日毎日バラの花びらを押し花にして、コピーし、修正して型紙を作り、銅板を切り、Stake & anvil(金床・烏口)を作り、金づちを成形しながらたたいていました。大小様々なバラの花びらが生れました。

 

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(5)1995年資料

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 (6)写真(5)1995年当時の金属原型を利用したPutite collierのバラピンブローチ

 

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(6)写真(5)1995年当時の金属原型を利用したPutite collierのバラブローチ

 

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(6)写真(5)1995年当時の金属原型を利用したPutite collierのバラブローチ

 

「Petite fiori」,「Putite collier」にもこの頃に制作した「バラの花びら」が使われています。写真(7)は写真(6)の花びらの先端を成形するために作ったオリジナルStakeです。

 

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(7)バラ用オリジナルStake

 

さてここから「Forging(鍛金)」の重要なポイントを説明します。

しかし、金属製のStake & anvil(金床・烏口)と金属製のHammer(金槌)で「Forging(鍛金)」を始める前に、少しだけでも製品の厚みを失わないための下準備があります。

 木型と木槌、木型とHammer(金槌)、金属製型と木槌による、大まかな成形です。(よくなまして行います。)

 金属製型とHammer(金槌)はその形で完成品になるとき、軽く、軽く使用して、最終仕上げに使います。(Planishing)

それ以外写真(8)和久ノート(1)で示しているように、金属と金属の工具で加工品を挟むことは、加工品の厚みを失うため、絶対にしてはいけません。この大まかな成形の時でも、たたく裏側には、かならず空間があるようにセットします。また金属製の成形台のエッジが、製品を傷つけないように注意しなくてはいけません。

 

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(A)

 

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(B)

 

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(C)

 

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(D)

 

そして、「Forging(鍛金)」にはいります。

「Forging(鍛金)」はHammer(金槌)とStake & anvil(金床・烏口)の作業になります。ですから仕上げ(Planishing)以外ではHammer(金槌)とStake & anvil(金床・烏口)で製品となる金属を挟むことはありません。写真(8)和久ノート(1)のように支えるポイントとたたくはポイントは少しずらします。図ではエルがずらす距離になります。たたいた時、製品となる金属の振動が大きくならないで、金属が変形する距離になります。「なまし」の状態、金属の厚さ、Hammer(金槌)とStake & anvil(金床・烏口)の大きさによってさまざまですが、だいたい1~2mmの距離にスイートポイントがあるはすです。

スイートポイントは見て確認することができません。ですから、音、指先に伝わってくる振動などで感じることになります。Hammer(金槌)でたたいた力が製品となる金属を変形させながら、反発することなく、その中にすべて吸収されるときには、製品となる金属は限りなく柔らかく感じるはずです。強くたたいてはいけません。指先に情報が伝わらなくなります。私はアトリエに籠もり、たたき続けて一か月くらいで、スイートポイントを理解したように感じました。

 

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(8)和久ノート

 

(2)は線材、板材を曲げるたたきです。ヤットコを使うと深い傷をつけてしまいます。また、ヤットコで曲げた曲線は、伸びやかできれいな曲線になりません。丸みのある金床に木槌を使います。

 (3は自動車のへこみを修理するのと同じような技術です。金属と金属の工具を使うため、深い傷をつけないように丸みのある金床(Stake)、Hammer(金槌)を使います。写真(3)のHammer(金槌)は場面に合わせて、すべて使用できます。金床(Stake)とHammer(金槌)の作品金属に触れる面積の少ない方に、押し出すような力が働きます。ですから同じ形状の工具でも大小が必要になります。Crimping用の(金槌)とStake (金床)で製品となる金属を挟むことがないように、スイートポイントを連続して感じることが大切になります。

そして(4)は「Crimping(ウエーブ作り)」を図解しています。「Crimping」は「Raising(日本の鍛金における絞りの技法です)」の一部です。

写真(8)の(4),Crimping用のStake (金床)でウエーブをつけます。外から中に向かって作業をします。写真(9)は大きいポットを作っています。ジュエリーやアクセサリー作りでは作業量が少ないこともあり、より金属に傷を付けたくないのす。そのため、Crimping用のStake、Hammerを木やプラスティックで作りました。試して下さい。

 

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 (9)CrimpingとRaising;METAL TECHNIQUES FOR CRAFTSMEN,Oppi Untracht

 

「METAL TECHNIQUES FOR CRAFTSMEN,Oppi Untracht」、この本は早稲田の後、(学)文化学園の旅行事業部にいた頃、ホノルルのアラモアナで出会い、ずっとロンドンにいくまで読み続けていました。Oppi Untrachtの本は「Jewelry Concept and Technology」も含めて、技術だけでなく民族文化や金属加工の歴史を広範囲に収録しています。後に、(学)文化服装学院・工芸課での講義内容が実技からデザインコンセプトと文化史に変化していったのは、Oppi Untrachtの影響があったのかもしれません。「形而下の文化史」もこの延長線上にあります。ぜひ一読ください。デザインコンセプトの基礎的な知識に触れているはずです。「和久譲治ジュエリーメイキングスクール」(参照)を長きにわたり続けてきました。そしていつも思っていたことです。「授業に出るたびに技術は得られます。ただ自身のデザインコンセプトがファッションや流行など表層の(情報)だけのことが多いのです。もっともっと人間の文化に興味を持って欲しいのです。」

 

 

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(10)和久ノート

 

「Crimping(ウエーブ作り)」で作ったウエーブを、片方の頂点延長線上まで引き上げるために、「Raising(持ち上げ)」と呼ばれるわけです。Raising用のStake (金床)に二つの頂点を付けて、真ん中のウエーブをたたいていきます。写真 (9)で内側から円を描くように外にたたいているのが分かります。よく「なまし」て下さい。たたいた「ひずみ」が周辺の金属に吸収されなければいけません。「ひずみ」が吸収されずに、移動する場合は、「なまし」が足りないか、金属の厚みが足りていないかのどちらかです。そして常に打撃音の小さい変化に気を付けてください。「なまし」不足も分かりますし、Stake (金床)とHammerで金属を挟んで薄くする危険も避けられます。

 

 

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(11)<ONLY MI >ジャパンアートアクセサリー、和久譲治(プティフィオリ)オパールと紫貝のバラ

siver,オパール、紫貝

花びら(silversmithing)、洋彫り「紫貝(カメオ彫り)、蕾(フローレンタイン)、葉(レリーフ彫り)」

 

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 (12)CrimpingRaising用のHammer

 

 

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 (13)Raising用のStake (金床)

 

写真(8)の(5)は写真(14)のパイプ状花弁や、写真(1)の茎などのような、中空状を作る方法です。ここで気を付けることは、(C)の工程でエッジとエッジを良く合わせてから、回転させながら丸めることです。写真(14)の花弁は、その丸める工程途中の形状をそのまま使用した例です。

 

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(14)スパイダー蘭 和久譲治 ;欄の世界’92 読売新聞社(参照)

 

 

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 (15)Pianishing Hammer(金槌)和久オリジナル

 

「Planishing)以外ではHammer(金槌)とStake & anvil(金床・烏口)で製品となる金属を挟むことはありません。」と前述しました。Pianishing とは成形が完成した後で、製品表面の凹凸をできる限り無くす工程です。形を変えないように、直角に軽く軽く叩いていきます。慣れてくると0.1mmも削れば鏡面仕上げが出来ます。製品の厚さを失うことなく作業ができることで、初めから薄めの金属で加工を始めることができ、加工が容易になります。金属にとって0.1mmは大きな数値だからです。

 

 

和久コレクション(7)

 

コレクション(6)に続く、ナポレオン時代、オープンセティングの始まり

 

 

 

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(1)ゴールドペンダント、 ホワイト&ピンクトパーズ(裏表)、ブルーペイスト(センター)、19世紀初頭

 

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(2)

(3)

 

(4)

非常に興味深い作品です。二十年近く前に、ロンドン郊外ケンプトンで開かれる「サンバリー・アンティーク・マーケット」で出会いました。展示スペースでなく、出展者の持ち物から、一部が見えていました。あまりの色彩の美しさに驚き、交渉を始めました。フランス貴族の所有物であったと話していました。その時は、半信半疑でしたが、色美しい華やかさと重厚な石留に魅せられて、交渉の末、購入しました。その後、石留や文化史の知識も増えたころ、この作品のことが、解り始めました。

 

和久コレクション(6)

 

アメジスト・水晶・ゴールド・シルバー ペンダント

18世紀から19世紀へーナポレオンの時代

 

非常に興味深い作品です。金と銀を貼り合わせたネックレス部分は、18世紀に作られ、ペンダント加工は、後に作られたようです。それぞれの時代の加工技術が見られます。

まず、よく見て頂きたいのは、宝石の石留技法です。写真(4)でよく分るように、「石を止める爪」のように見えるのは、「爪」ではありません。

 

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入院中 連絡用メモ帳に描いた 自画像

長らくお待たせいたしました。また再開します。

 

写真(4,5,7)に見られるように、この作品は金(裏)と銀(表)の張り合わせで出来ています。ホワイトゴールドが作られたのは、19世紀の後半ですから、19世紀初頭の白い貴金属としては、「王の金属」と言われた、大変希少なプラチナと銀でした。故に、白にこだわったジュエリーは、表の石留部分に銀を用い、肌や洋服に触れる裏側を金にするジュエリーが作られました。

石留技法は、空洞にした石座に、蓋をするように宝石を360度叩いて埋め込んでしまう、これまで見てきた16,17世紀の石留技法と同じです。カップのような裏側・金部分は板材をロー付けして、手作りしています。この時代、産業革命の影響で量産品はプレスでの成形も始まっていたはずですが、この作品は手作りしています。

そして装飾的に大きくなった「爪に見える突起」も特徴です。ただ、宝石を留める「爪・prong,claw」ではまだありません。もう間もなく、石座の底を抜いた「オープンセティング」が始まり、密閉するため、360度叩きこむことが必要でなくなったとき、この突起は、宝石を留める「爪・prong,claw」になっていきます。

写真(1,8)を見ると、ペンダント部分外側にあるアメジストは、「オープンセティング」なのに、360度叩きこみで石留されています。「オープンセティング」に移行する過渡期に作られたことを示しています。

非常に興味深い時代のジュエリーです。

 

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1

 

 

 

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2



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3

 

この写真(3)を見ると、4個のアメジストの石座の底が抜けていることが分かります。底を閉じて、色や輝きの修正をする金属箔を石の下に入れる必要もなくなるほど、宝石のカットが進歩したことが分かります。「オープンセティング」の始まりです。ただ写真(8)を見ると、上部の石留は、360度の金属を石の上に被せています。隙間なく叩き込んでいたのは、中に入れた金属箔を出来るだけ水や空気に触れさせない為の技法です。「オープンセティング」になれば、その必要もなくなります。爪のように見えていた金属が少し長くなるように削り出され、実際に宝石を留める爪になっていきます。

このジュエリーは「オープンセティング」への変化の初期に作られたことが分かります。そして、宝石を留める爪への変化にも、初期の段階があったことを、次のコレクションでお見せします。

それと。この過渡期の「オープンセティング」は、高い技術力で作られていることを、ジュエリー職人の立場から紹介します。写真(3)で見えている金合金の石座は、一枚の板状の金合金を丸めてロー付けして作っています。ほかの石座のような張り合わせはしていません。板の厚みは、わずか0.5mmしかありません。丸めた石座の厚みをグレイバーで彫り込んで、比較的大きいアメジストを引っ掛け、埋め込んでいるのです。しっかりアメジストを座らせなければ、上からの360度全部の叩き込みには耐えられません。驚くほど正確に、アメジストの形に石座は作られているのです。

 

 

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和久コレクション(5-2)

1600's中期以後スペイン・ポルトガルで流行した二つのスタイル  Cross(十字架)と B0w(リボン)そしてSemi esfericos setting(半球留)

 

 

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 Cross(十字架)& B0w(リボン) ブローチ 1600's中期 silver 水晶 (裏面)

 

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裏面を丁寧に彫り上げる作品は、ポルトガル、スペインで17世紀後半に現れます。17世紀前半はエナメル仕上げが流行していました。弧を描くように掘り、掘り始めは細く、終わりは太くなる線は、graverで彫った洋彫りの特徴です。彫の図案に、インドの影響が感じられます。大航海時代にインドからの多くの職人が、ポルトガル、スペインにやってきた記録があり、教会用の作品も、彼らによって彫り上げられます。表面の水晶のカットや石留技法、そしてリボンの形を考え合わせて、17世紀後半の作品だと読み取れます。

アンティークジュエリー求めて行ったポルトガル・リスボンへの旅は、ハプニング続きの忘れられない思い出です。コレクション(1)の「キリスト騎士修道会十字章」は老舗アンティークショップオーナーのコレクションでした。どうしてVIPしか招かれないオーナー室に行ってコレクションに出会えたのか、いつか書いてみたいと思います。

 

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