WAKU JEWELRY Blog

和久譲治のジュエリーブログ

 

WAKUコレクション(6)

 

アメジスト・水晶・ゴールド・シルバー ペンダント

18世紀から19世紀へーナポレオンの時代

 

非常に興味深い作品です。金と銀を貼り合わせたネックレス部分は、18世紀に作られ、ペンダント加工は、後に作られたようです。それぞれの時代の加工技術が見られます。

まず、よく見て頂きたいのは、宝石の石留技法です。写真(4)でよく分るように、「石を止める爪」のように見えるのは、「爪」ではありません。

 

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入院中 連絡用メモ帳に描いた 自画像

長らくお待たせいたしました。また再開します。

 

写真(4,5,7)に見られるように、この作品は金(裏)と銀(表)の張り合わせで出来ています。ホワイトゴールドが作られたのは、19世紀の後半ですから、19世紀初頭の白い貴金属としては、「王の金属」と言われた、大変希少なプラチナと銀でした。故に、白にこだわったジュエリーは、表の石留部分に銀を用い、肌や洋服に触れる裏側を金にするジュエリーが作られました。

石留技法は、空洞にした石座に、蓋をするように宝石を360度叩いて埋め込んでしまう、これまで見てきた16,17世紀の石留技法と同じです。カップのような裏側・金部分は板材をロー付けして、手作りしています。この時代、産業革命の影響で量産品はプレスでの成形も始まっていたはずですが、この作品は手作りしています。

そして装飾的に大きくなった「爪に見える突起」も特徴です。ただ、宝石を留める「爪・prong,claw」ではまだありません。もう間もなく、石座の底を抜いた「オープンセティング」が始まり、密閉するため、360度叩きこむことが必要でなくなったとき、この突起は、宝石を留める「爪・prong,claw」になっていきます。

写真(1,8)を見ると、ペンダント部分外側にあるアメジストは、「オープンセティング」なのに、360度叩きこみで石留されています。「オープンセティング」に移行する過渡期に作られたことを示しています。

非常に興味深い時代のジュエリーです。

 

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1

 

 

 

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3

 

この写真(3)を見ると、4個のアメジストの石座の底が抜けていることが分かります。底を閉じて、色や輝きの修正をする金属箔を石の下に入れる必要もなくなるほど、宝石のカットが進歩したことが分かります。「オープンセティング」の始まりです。ただ写真(8)を見ると、上部の石留は、360度の金属を石の上に被せています。隙間なく叩き込んでいたのは、中に入れた金属箔を出来るだけ水や空気に触れさせない為の技法です。「オープンセティング」になれば、その必要もなくなります。爪のように見えていた金属が少し長くなるように削り出され、実際に宝石を留める爪になっていきます。

このジュエリーは「オープンセティング」への変化の初期に作られたことが分かります。そして、宝石を留める爪への変化にも、初期の段階があったことを、次のコレクションでお見せします。

それと。この過渡期の「オープンセティング」は、高い技術力で作られていることを、ジュエリー職人の立場から紹介します。写真(3)で見えている金合金の石座は、一枚の板状の金合金を丸めてロー付けして作っています。ほかの石座のような張り合わせはしていません。板の厚みは、わずか0.5mmしかありません。丸めた石座の厚みをグレイバーで彫り込んで、比較的大きいアメジストを引っ掛け、埋め込んでいるのです。しっかりアメジストを座らせなければ、上からの360度全部の叩き込みには耐えられません。驚くほど正確に、アメジストの形に石座は作られているのです。

 

 

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4

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8


 

 

 

 

WAKUコレクション(5-2)

1600's中期以後スペイン・ポルトガルで流行した二つのスタイル  Cross(十字架)と B0w(リボン)そしてSemi esfericos setting(半球留)

 

 

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 Cross(十字架)& B0w(リボン) ブローチ 1600's中期 silver 水晶 (裏面)

 

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裏面を丁寧に彫り上げる作品は、ポルトガル、スペインで17世紀後半に現れます。17世紀前半はエナメル仕上げが流行していました。弧を描くように掘り、掘り始めは細く、終わりは太くなる線は、graverで彫った洋彫りの特徴です。彫の図案に、インドの影響が感じられます。大航海時代にインドからの多くの職人が、ポルトガル、スペインにやってきた記録があり、教会用の作品も、彼らによって彫り上げられます。表面の水晶のカットや石留技法、そしてリボンの形を考え合わせて、17世紀後半の作品だと読み取れます。

アンティークジュエリー求めて行ったポルトガル・リスボンへの旅は、ハプニング続きの忘れられない思い出です。コレクション(1)の「キリスト騎士修道会十字章」は老舗アンティークショップオーナーのコレクションでした。どうしてVIPしか招かれないオーナー室に行ってコレクションに出会えたのか、いつか書いてみたいと思います。

 

WAKUコレクション(5)

 

1600's中期以後スペイン・ポルトガルで流行した二つのスタイル Cross(十字架)と B0w(リボン)そしてSemi esfericos setting(半球留)

 

 

(2) B0w(リボン)and  Cross(十字架) silver 水晶

 

アンティークジュエリー探しは、本当に面白いことです。このジュエリーに出会ったのは、リスボンのショッピングモールに入っているアンティーク店でした。中年のマダムだけでやっているお店でした。本人が自分で買い付けに歩いている人で、面白い地方などのことも話してくれました。この小さなアンティークジュエリーのことは、比較的新しい17世紀風ブローチだと説明を受け、安く手に入れました。後でよく調べてびっくりしました。いくつもの発見があり、私のコレクション中、最古(1600’s後半初期)の物だと解りました。このアンティークジュエリーの秘密をひとつづつ説明します。

 

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このジュエリーに用いられている水晶のカットは、これまで見たことがありませんでした。(1)の写真を見てください。二つのオーバルの石のカットは左右で違っています。右の石は、テーブルからガードルの間(上部・クラウン)を、上下の▽、△でカットしています。一方、左の水晶は▽、◇、△にカットされています。そして写真(2)、確認できるパビリオン(下部)は△x4になっています。色々変化に富むカットの基本的な構成要素は写真(3,4)に見られるものでした。同じ基本的な構成要素を持つ歴史的なカットは、写真(3,4)になります。そして、その両方がルイ4世の時代を指し示しています。これは詳しく見ていかなければいけません。

 

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(1)側面の丸味は素朴ですがSemi esfericos setting(半球留)(参照)になっっています。

 

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(2)ポイントカット(Point Cut)(上下四角錘)の上が取れてテーブルカット(Table Cut)が生まれ、テーブルに△カットがされ始めた初期に当たる。マザランカット(Mazarin Cut)などがある。マザランカット(Mazarin Cut)は側面に▽x1だが、これは▽x2に変化している。

 

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(3)ムガルカット(Mughal Cut,インド)に由来するポートレートカット(Portrait Cut)

  写真はルイ14世が手に入れ、1668年にカットさせた有名なホープ・ダイヤモンド

 

16世紀までは、ダイヤモンドの産出も研磨も、インドのムガル帝国(Mughal Empire)が独占していました。16世紀にヨーロッパでダイヤモンドの研磨が始まります。その試行錯誤の様子が、このペンダントに使用されている水晶のカットにみられるのです。

 

 

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(4)マザランカット(Mazarin Cut)

 

ダイヤモンドの原石は六方晶系ですから、角砂糖のような形です。そのカットの歴史は写真(5)のように発展していきます。そして、四角形のテーブルカット(Table Cut)の側面に、さらにカットを加えることから、今日のブリリアントカット(Brilliant Cut)への道が開けていきました。写真(4)のマザランカット(Mazarin Cut)は、初期の一つの完成形です。このペンダントの四角石(写真2)は、マザランカット(Mazarin Cut)によく似ています。ちなみにMazarinとは、ルイ14世の教育係であった「Jules Mazarin 1602~1661」ことです。

 

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(4)マザランカット(Mazarin Cut)

 

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(5)

 

写真(1)楕円形石のカットは、非常に面白く、写真(6) (A)Portrait Cut になっています。マザランカット(Mazarin Cut)ではすでに、外側の△は縦に二分割されて、丸味に沿った多いファセット(facet、カット面)になっています。ヨーロッパにおけるダイヤモンド研磨の初期には、写真(3)のような、インドのムガルカット(Mughal Cut)を参考にしていたことが証明されます。Brilliant Cutのテーブル(上部の平らなファセット)などでは、四辺形の二分割で八角形なのですが、(A)の水晶は十角形にして、丸味に沿わせています。

ルイ14世がホープ・ダイヤモンドを手に入れて、加えたカットが、ムガルカット(Mughal Cut,インド)に由来するポートレートカット(Portrait Cut)であったことと、同時代性を感じます。

 

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(6) (A)Portrait Cut  (B)Prot-Brilliant Cut(Baroque-Brilliant Cut)和久ノート

 

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