WAKU JEWELRY Blog

和久譲治のジュエリーブログ

 

WAKUコレクション(9)

 

 

Hove'(2)

Holly Wood と契約したFine-jeweler.

 

Hove'の1920’s~1930’sの作品は全てのパーツを手作りして、石はジュエリーの様に石留しています。コスチュームジュエリーとしては、比類なく高度な技術で作られています。二度と同じようなものが作られることはないでしょう。

 

(6)Hobe' ブローチ 

作りはコレクション(8)と同じですが、この作品のセンター石を取り囲む「撚り線の金モール」の様な装飾は、豪華で美しいものです。前コレクションで言及しましたが、Hobe' の技術の持つテイストは「贅を尽くした王朝風」です。「撚り線」のあしらい方は「filigree(金属線状細工)」より「装飾用金モール」に近いと思います。

 

(7)

(8)

いつ見ても裏面の手作業の痕には驚かされます。高度な技術を持つ職人が、どれだけの時間をかけて作ったのでしょう。本当にコレクトアイテムと言うべき作品です。

WAKUコレクション(8)

Hove'

Holly Wood と契約したFine-jeweler.

19世紀中頃、ナポレオン3世統治下のパリで設立された宝飾店です。1920'sアメリカに移り、コスチュームジュエリーを作ります。Holly Woodの映画会社と契約して作品を作ったことで有名です。

この作品は初期のもので、徹底したフランスアンティークジュエリーの技法作られています。驚くことに、和久コレクション(7)で紹介した19世紀初頭ナポレオン1世時代の技法です。色鮮やかな半貴石と細い撚線で構成され線状細工もナポレオン1世時代に流行したスタイルです。

ナポレオン3世の時代(在位1852年~1870年)にナポレオン1世時代(在位1804年~1815年)のスタイルと技術で宝飾品を作ったのですから、皇帝との結びつきが考えられます。アメリカ移住の理由もそのあたりにありそうです。ちなみに、和久コレクション(7)のモデルになった「シャルルマーニュのペンダント」はこの時代、ナポレオン3世妃 ウジェニー・ド・モンティジェが所有していました。

ナポレオン1世時代の技法を検証していきましょう。和久コレクション(7)と比べてみてください。

 

(1)

表から見れば日本彫金の覆輪止めのように見えますが、裏から見れば。いわゆる「pipe-setting」であることが解ります。和久コレクション(7)に図解していますように、板を丸めてロウ付けしてパイプを作り、石を引掛ける段差を洋彫り鏨で彫りこみます。

 

(2)

裏から見ればこれらの作業を、全て手作りしているのが解ります。今ではジュエリーでもやらないような、労力と技術の必要な作業です。パリでジュエリーを作っていた頃そのままの工程でつくっています。

 

(3)

 

(4)

石留は、さすがに18世紀の「cutdown-setting」(コレクション6の様に)はしていませんが、ペースト(ガラス石)に金属をたたき被せています。たたき被せる時に出来た余分なしわは「cutdown-setting」の飾り爪のように残してあるのも確認できます。硬い宝石なら容易い作業ですが、割れやすいガラス石に金属をたたき被せるのは、熟練した技術が必要です。ギザギザの爪止めに見える石枠は、一つ一つ糸鋸でカットしています。

 

(5)

下に見えるレール状の明り取りも、アクセサリーでは珍しいハイ・ジュエリーの技法です。

つまり18世紀半ばから、パリで作っていたジュエリーそのままに作られているのです。

良き時代のHolly Wood映画用であり、Holly Woodセレブリティの、当時流行していた「Cocktail Party」の為のコスチュームジュエリーです。

もう少しHove'の作品を続けます。

 

 

WAKUコレクション(7)

 

コレクション(6)に続く、ナポレオン時代、オープンセティングの始まり

 

 

 

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(1)ゴールドペンダント、 ホワイト&ピンクトパーズ(裏表)、ブルーペイスト(センター)、19世紀初頭

 

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(2)裏面

 

 

(3)二重台座の中心パーツ

 

(4)参照

非常に興味深い作品です。二十年近く前に、ロンドン郊外ケンプトンで開かれる「サンバリー・アンティーク・マーケット」で出会いました。展示スペースでなく、出展者の持ち物から、一部が見えていました。あまりの色彩の美しさに驚き、交渉を始めました。フランス貴族の所有物であったと話していました。その時は、半信半疑でしたが、色美しい華やかさと重厚な石留に魅せられて、交渉の末、購入しました。その後、石留や文化史の知識も増えたころ、この作品のことが、解り始めました。

 

コレクション(6)の作品で観たように様に、18世紀の末、「open setting」が始まりました。箱のような台座の中に金属箔を入れ、台座の中に宝石を引掛ける溝を彫り込んで、金属箔を酸化させないように、宝石を入れて、360度宝石の上に金属をたたき被せ、蓋をするように石留したのが「closed setting」でした。「open setting」が始まっても、18世紀の石留と同じ様に、360度宝石の上に金属をたたき被せていたのが、コレクション(6)です。

やがて金属箔を使用しない「open setting」は、360度宝石の上に金属をたたき被せる必要もなくなり、石留も変化していきます。

写真(4)の(1)の様に、宝石に被せる部分だけを残して、残りを擦り落します。これの発展形が「Tiffany setting」になります。

19世紀初頭ナポレオン・アンピール様式の時代には、この新しい石留はシンプルに見え過ぎたのでしょうか、この作品は写真(4)の(2)の様に彫を入れたパイプが、写真(4)の(1)を取り囲んでいます。ナポレオン・アンピール様式の珍しい石留です。

また、円形とブルーを強調したデザインは、「雨による平衡の女神」(詳しくは形而下の文化史を読んでください)を表象したものです。同じ頃ナポレオンがジョセフィーヌに贈った「シャルルマーニュのペンダント」になぞらえたものだと考えられます。この「シャルルマーニュのペンダント」の中心は大きいサファイアです。

 

まだまだアンティークジュエリーの紹介は続きますが、次回はコレクションもう一つのラインから、シャネルの好んだ「Gripoix」や「Hobe'」などコスチュームジュエリーを取り上げてみたいと思っています。本当に美しい色彩の作品達です。お楽しみにしてください。

 

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