WAKU JEWELRY Blog

和久譲治のジュエリーブログ

 

WAKUコレクション(17)

 

 

オーストリア=ハンガリージュエリー(オーストリア=ハンガリアン)

ネオルネサンススタイル

 

アンティークジュエリー好きの人はご存知の,ちょっと特別のジュエリーです。ハプスブルグ家の君主が統治するオーストリア帝国は、1867年からハンガリーを国家連合の形態で統治を始めます。ジュエリーやアクセサリーもオーストリア帝国の文化にオリエンタルなハンガリーの色彩が加わり独特のテイストを持った作品が作られました。現在ではアンティークマーケットでも見かけることは少なくなり、コレクターのアイテムになっています。

この作品は1866年のホールマークですので、正確にはオーストリア=ハンガリアンとは呼べないのかもしれません。しかし、重要なことが解ります。国家連合の前年にウイーンの工房で作られたこの作品はオーストリア=ハンガリアンの特徴である「ネオルネサンス」のデザインで作られています。つまり、オーストリア=ハンガリアンジュエリーはオーストリア帝国の流行をハンガリーに持ち込んだものなのかもしれません。そしてハンガリーのアクセサリーはもっとマジャール民族の民芸品的な色彩が強くなります。

この作品は色彩が少し控えめの「ネオルネサンス」のデザインです。そしてウイーンの工房の技術力が解る丁寧で高度の石留がみられます。

 

写真(4)のクラスプ(留め具)の裏側を見れば、スペイン、ポルトガルの彫留とは違う発展をした石留技術が分かります。完全なクローズドでもなく完全なオープンでもありません。小さな穴に石のキュレットが見えています。石を取り除いてみなければ、正確なことは言えませんが、スペイン、ポルトガルの彫留の様な、石のガードルを引っ掛けて石を正しく座らせる二段彫りがないかもしれません。石のキュレットを穴に差し込むことで、石をまっすぐに座らせています。スイスの時計業界で使われている彫留です。(参照)

この特徴はオーストリア=ハンガリアンジュエリーの真贋を見分けるときに役立ちそうです。

 

 





(1)ガーネット、パール、ローズクォーツ,エナメル、銀製

 

(2)

パールのリベット留めはルネサンスのジュエリーに見られます。エナメルは剝がれ落ちている箇所が多いです。完成時はもっと目立っていたはずです。

 

(3)細部にまでガーネットがスペイン、ポルトガルのスタイルで彫留されています。

(4)裏面のエナメル


(5)刻印はViena(ウイーン)、1886年、SV800

ボックスキャッチ(留め具)も丁寧に作られています。

 

 

 

 

散歩道

 

 

 

今日は 作業用顕微鏡で金属原型の細部の修復

しょぼしょぼの目で散歩

気分を変えていつもと違う道

百日紅サルスベリに包まれた

 

修復作業

ワクジュエリーメイキングの頃、銀のより線をロー付けして作ったリボンです。石枠用に開けていた穴を、銀線をロー付けして塞ぎ、表面のテクスチャーを彫り直しました。(どこか分かりますか)グレイバー(洋彫りタガネ)でのこのような技術は、もう消滅しかけています。3Dプリンターなどで効率化しています。洋彫りは楽しいです。心身の集中が心地良いのです。優しさなどのゆらぎが表現できます。先のない老人に残された楽しみです。ちょっと幸せ

 

WAKUコレクション(16)

1600年代後半・ガーネットペンダント

 

私のコレクションに共通する特色ですが、中でも歴史的・技術的に見て興味を惹かれる作品です。デザイン、宝石のカットは明確に1600年代のものです。以前にも紹介したルイ14世やマゼランの時代です。(参照)

宝石のカットはコレクション(5)より少し古いか、未熟なcutterの仕事です。

それにもましてブローチの裏面は、当時のスペイン、ポルトガルの作品とは大きく違っています。スペイン、ポルトガルの作品は、厚みのある金属の板を糸鋸で切り抜き、表から宝石を板に彫留めます。金属に宝石の穴を掘り、埋め込み、最後に裏表に飾彫りやエナメルを施します。

この作品は石枠、組み立て、すべて薄板と線材で立体に組み立てています。

古来、ローマ帝国崩壊後の線状細工が、ルネサンススタイルになりその技術がドイツに伝わったものです。日本の彫金技法と似ています。その後、スペイン、ポルトガルにインド由来の彫留めが発達します。(大航海時代)

つまり、当時スペイン、ポルトガルで流行していたデザインを、スペイン、ポルトガルと違う技法で作ったものです。金属の小花は白エナメルが施されていたと思います。当時スペイン、ポルトガルの作品にもエナメルが施されていましたが、この作品のエナメルはルネサンスのテイストを感じます。ドイツとポルトガルの融合にハプスブルグ家を考えてしまいます。

コレクション(5)と同じ年代のものです。見比べてください。

1600年代中葉・ガーネットペンダント

 

 

 

初期のtablet cutされたクオーツ(四角)

 

 

Portrait cutのガーネット

 

石枠は彫金と同じように、底が有るように作られているので、後ろのドームは飾りです。スペイン、ポルトガル、フランスなどの彫留め技法のスタイルを模した作りになっています。

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